矢作川研究所日記

2019/11/22

矢作川研究所セミナー「美しい秋吉台を守ろう! ~秋吉台の採草地再生と外来種防除~」

 今回のセミナーは、山口県から太田陽子先生(美祢市立秋吉台科学博物館・秋吉台草原ふれあいプロジェクト)をお招きして、草地管理をテーマに講演をしていただきました。



 日本有数のカルスト台地、秋吉台には約11.4㎢の草原が広がっており、採草地として利用されてきました。草原は山焼きや採草によって維持されてきましたが、現在は草原の草を使う農家が激減し、草原の面積は大幅に減少しているそうです。
 「秋吉台草原ふれあいプロジェクト」では、人の営みと共存してきた多様な生きものがすむ良好な草原環境を守るため、また、地元の技術や知恵を受け継ぐ機会を作るため、草を使う伝統的な農業を支援しながら、採草地の再生に取り組んでいるとのことです。



 農家はもちろん、ボランティアや体験活動の人々が、3月から5月を除き、草刈りを行います。刈った草は畑に敷く資材や牛の飼料および寝床として利用します。畑に敷いたり積み上げたりした草は、有用な菌が増え、よい肥料になるそうです。
 草刈りの際、「草刈りに弱い花が生える場所では草を刈らない、草の高さが低い草原は刈らない、地面近くまで刈り込まない、刈った草は草原の外へ持ち出す」という方法によって「野草のお花畑」を出現させる「お花畑プロジェクト」も行われています。この方法を基本に、草刈りの時期や頻度を変えることで、咲く花の種類や数が、草を刈らない場所よりも増えるという調査結果が出ています。
 また、外来植物が増えてしまったエリアでは、在来植物の草原を再生する活動を行っています。以前栗園として使われていた場所では、施肥によって土壌に栄養分が蓄積され、セイタカアワダチソウが繁茂していましたが、それらを刈り取って持ち出すことで土壌の化学性が変化し、セイタカアワダチソウの生育に不利な土壌環境に変わっていきました。開始から12年目の現在、セイタカアワダチソウは減少し、在来の草原性植物は増加しているそうです。
 人が利用することで維持されている秋吉台の「二次的な自然」の現在の姿は、豊田市の「水辺愛護会」が行っている河畔林の草刈りに参考になるものでした。今後水辺愛護会の皆さんにこの情報をお知らせし、活動に盛り込んで頂ければと思っています。

※講演内容の詳細は、「秋吉台草原ふれあいプロジェクト」のウェブサイトで紹介されています(リンク)。
年度報告書の概要版もダウンロードできます(リンクの下方より)。



2019/11/13

大洞市有林で林分調査を行いました

手入れ不足で過密な状態の人工林を間伐すると、森の土が水を蓄える「緑のダム機能」が上がったり、土砂崩れの危険性が下がったりするのでしょうか? こうした研究は各地で行われていますが、豊田市は岐阜県との県境に近い市内小原地区の大洞市有林で、2016年度より、間伐の効果を調べるモニタリング調査を行っています。渓流の流量や土砂、表面流の流出量の調査は東京大学が委託を受けて実施しており、植栽木や林内の明るさ、林内の植物の変化を矢作川研究所が調べています。実験区では昨年度から今年度にかけて、順次間伐が実施されています。

この日は研究員の洲崎が森林課の西川さんにお手伝いして頂き、土砂流出量の実験区で間伐前の林分調査を行いました。傾斜角28°とかなり急勾配で、足場を慎重に確保しながらの作業になりました。
植栽木の密度は1ヘクタールあたり約1800本と、かなり過密な状態であることが分かりました。過密で林内が暗いため、この日の前に調べた林内の植物は、被覆率が平均5%、種数も平均5種ときわめて少ない状態でした。
この実験区では今年度内に間伐が実施されますので、その2年後と5年後に同様の調査を行い、間伐によって林内が明るくなり、林内の植物が回復していく過程を追跡して、流量等の変化と重ね合わせていければと思っています。


林分調査のようす(2018年10月撮影)


            昨年度間伐を行った実験区(表面流観測地点)