矢作川研究所セミナー「生態ピラミッドの頂点に立つ鳥類をシンボルにした自然再生」

2020/01/21

 今回は、大型鳥類の保全を通じた自然再生に取り組まれているお二人を講師にお招きしてセミナーを開催しました。



 まず、「サシバをシンボルにした生物多様性の保全 ~サシバのすめる森づくり~」と題し、豊田市自然観察の森の川島賢治氏にお話し頂きました。
 里山環境を好んで利用するサシバはアジア域を生息地としており、数年前まで主として東南アジアでの食用を目的とした密猟が絶えませんでしたが、保全のために設立された国際ネットワークと地元自治体の協力によって密猟は激減したそうです。2019年には第1回サシバ保護エコツアーがフィリピンで、同じく第1回国際サシバサミットが栃木で開催されました。
 サシバの保全は里山生態系の生物多様性の保全に直結します。2003年より「サシバのすめる森づくり」事業を実施している豊田市自然観察の森では、サシバの餌環境を保全するため「カエルの谷」と名付けられた谷戸で田んぼ環境の保全が行われました。ここには多くの希少種が生息するようになり、休耕田の水張りがカエルを増やし、畦の草刈りが植物と昆虫の多様性を高めることが分かりました。



 続いて「豊岡市におけるコウノトリをシンボルにした生物多様性の保全」と題し、兵庫県立コウノトリの郷公園の佐川志朗氏にお話し頂きました。
 コウノトリの個体数は現在、世界で3,000羽程度だそうです。日本では1930年が個体数のピークで、その後は営巣木となるアカマツの減少や農薬使用量の増加により減少し、1971年に野性個体が絶滅しました。1985年にはロシアのハバロフスクから導入した個体の飼育が始まり、2005年には試験放鳥が始まりました。現在は170羽を越える個体が野外で生活するようになっています。
 コウノトリの主な餌は魚類、昆虫類、クモ類、両生類などで、水域を主な餌場としています。剥製の羽を用いて絶滅前の個体群の餌を分析したところ、特に干潟の多かった太平洋側で海水魚の比率が高く、餌環境を守るためには海から淡水域の生物多様性を保全することが必要だと考えられました。
 より多くのコウノトリが生息できる環境づくりをめざし、豊岡盆地では河道内外の氾濫原づくり、水域の連続性の確保、環境配慮型護岸の導入が進められています。こうした自然再生事業の取組は各地で進められるようになり、2013年には、「コウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル」(IPPM-OWS)が設立され、コウノトリの野生復帰の支援や各個体のデータ管理を行っています。

 かつては日本各地で見られた、里山に暮らす大形の鳥たち。彼らの数を増やすことはそれ自体が目的でありながら、里山の、とりわけ水域の豊かさを再生する手段でもあることが改めて認識できました。いつか、もっと多くのサシバが棲み、コウノトリの飛来する矢作川流域にできたら…との思いを抱きました。


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