No.176 トウカイヨシノボリ

 ヨシノボリ類はハゼ科に属する仲間で、身近な魚の一つです。水辺で水中を覗き込み、川底をシュッシュッと動く小さい魚がいたら、それはたいていヨシノボリ類です。「ヨシノボリ類」としたのは、ヨシノボリ類の見分け方が難しいからです。ヨシノボリ属と呼ばれる種類には、10以上の種が含まれます。近年、種として記載された種類もあり、同定するには細かな部分まで確認する必要があります。以前分けられた種類が再統合された種もあります(例:オウミヨシノボリ→トウヨシノボリ)。
 矢作川研究所にお手伝いに来てくれている大学生がトウカイヨシノボリの調査をすると聞き、実物を見たくて矢作川の支川に向かいました(希少種保護のため河川名は伏せます)。途中に池のある小さな川で、「溜池や、冬でも水が枯れない水田水路などに生息する」という図鑑の記述に近い環境を有しています。学生さんと合流しましたが、見つかるのは近縁種のカワヨシノボリばかりで、トウカイヨシノボリはなかなか見つかりません。抽水植物がある地点で見つかることが多いとのことで、そのあたりを集中的に探索しました。そろそろ帰ろうかと思い始めた頃、トウカイヨシノボリが捕獲され、ついに念願のご対面となりました…。


 鼻先(吻)が短く、ブサイク…ではなく可愛らしい顔つきをしています。体のサイズも大きくなく、可愛さを手伝っている感じです。これまで採集されていたカワヨシノボリは、鼻先が長く、体も大きめでしたので、随分違う印象を受けました。丁寧に見ていくと、ヒレの色彩や模様も検索図鑑にある通りで、まさにトウカイヨシノボリでした。
 このトウカイヨシノボリは、環境省レッドリストで準絶滅危惧種(NT)にランク付けされています。流路幅の小さい水路のような川を主な生息場所としつつも、コンクリート化された場所には少ないようです。小さな川が健全に保たれているシンボルフィッシュと言えるかもしれません。
 ヨシノボリ類は身近な魚ですが、その1種であるトウカイヨシノボリは珍しい魚となっています。水辺を覗き込んでヨシノボリ類を見かけたら、じっくりと観察してみてください。もし、上記の特徴を備えたトウカイヨシノボリだったら、研究所まで情報をお寄せ下さい。(小野田幸生)


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