アユの生態調査

古くから愛されてきた回遊魚「アユ」のすみ良い川をめざしています
Towards an ideal river condition for the migratory fish “ayu”
市民と共働の調査
Investigating the life history of ayu together with citizens

 愛知県内でも有数のアユ釣りのできる川として知られる矢作川では、毎年シーズンになると多くの釣り人で賑わいますが、アユが生息する上で様々な環境面の問題があります。そこで、1996年から1997年にかけて河川におけるアユの生活史調査を、2000年から2004年にかけては海域における生活史調査を網羅的に実施し、生息上の問題点を明らかにしました(表参照)。


遡上アユ
多い時は1日に数万から数十万尾が明治用水頭首工の魚道を通過する。
漁協によって遡上アユの一部は採捕され、上流へ運ばれている。


矢作川天然アユ調査会


 矢作川の清流と天然アユの復活を願って1996年9月に設立された矢作川天然アユ調査会は、矢作川の釣り人を中心に、アユの生態調査の実働部隊として矢作川研究所と協働で研究を進めています。矢作川と三河湾とを往来する回遊魚の代表格であり、多くの市民に愛されているアユを指標種として調査を続け、彼らを取り巻く環境や生活サイクルを科学的に明らかにし、さまざまな生き物が棲みやすい矢作川を取り戻していきたいと考えています。



バランスの崩れた川底と海底
An ecologically unbalanced riverbed and seabed

 アユの産卵からふ化の時期には産卵場の機能低下の問題があります。川底の礫の間に隙間がなくなり、産卵に適した場所が限られているとの結果を受け、短期的な改善策として川底を掘り起こして産卵に適した場所づくりが開始されました。また、本流に複数のダムが存在することで成熟したアユの降下が阻害されるため、ダムから分岐する用水路に迷入したアユを捕獲し下流の人工産卵場へ移送する事業が矢作川漁業協同組合によっておこなわれています。
 矢作川河口周辺の海域では多くの場所で海底にヘドロ(有機物を多く含んだ泥)が堆積しています。河口近くのヘドロが堆積した場所でアユが採れない傾向にあることが判明し、他の生物もそこではあまり採れないことから矢作川流域の大きな問題であると考えています。
 現在、ダムに堆積した砂を下流に流す試みが開始され、砂の回復に伴い流域の生態系がどう変貌するか注目されています。


川底を掘り起こす

海底から採集したヘドロ


緑の川 ―アユのすむ川底の変化―
“Green”river - change in the riverbed


 矢作川中流域の不健全さの象徴とされたカワシオグサの異常繁茂は1980年代後半から観察されるようになりました。カワシオグサは川底の石に付着して成長する藻類です。カワシオグサが卓越するようになった川底の変化をみると、この半世紀の間に大きく変化したことがわかりました。
 1997年からはじめた現地調査の結果、矢作ダムの上流(大野瀬町)から葵大橋(岡崎市)までの区間では、カワシオグサ、カワヒビミドロ、アオミドロなど数種の大型糸状藻が繰り返し繁茂していることがわかりました。種類によって繁茂する場所や時期が異なっていましたが、その中で初夏におけるカワシオグサの著しい繁茂は、アユのなわばり形成時期・場所と重なることから、珪藻や藍藻を主食とするアユの成長を妨げている可能性があります。