矢作川を知ろう 【矢作川と人】

<子どもたちに伝える「身近な自然」の大切さ>

藤井泰雄さん(元矢作川漁業協同組合平戸橋支部長)(82歳)(年齢は取材時)



藤井さんはかつて矢作川漁協の平戸橋支部長という役割を担われ、希少魚類の繁殖に力を注ぎ、依頼を受けた小中学校に出向き子ども達とたくさんの川遊びを行ってきた方です。河畔林「お釣り土場水辺公園」の管理にもご尽力をいただきました。また季刊誌『RIO』No.201では「矢作川の生きもの」コーナーで渡りをする蝶、アサギマダラについてもご寄稿いただいています。
藤井さんのお話には、優しい語り口調の中に固い信念と科学の目を感じました。なかでも子ども達との関わりは微笑ましくも本質的なものでした。
(聴き取り 吉橋久美子2016年7月25日、12月19日)
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生き物の世界が大きく変わった

子どもの頃から川で遊ぶこと、魚をとること、虫を採ること、植物を採ること、そういうことがもう何より好きで、勉強なんて言うのは二の次で(笑)。
で大人になってから気が付いたんだけど川の中の生きものの種類が変わった、数が減った。何が原因だろうなと考えた時に、矢作川の水が汚くなってしまったことに気付いた。あちこち見て歩くと、もう、やっぱり、生き物の世界が大きく変わってる。池の中も、川の中も、田んぼの中も、もう子どもの頃と比べたら月とスッポン、豊かで水がいっぱいある緑の平原とそれから砂漠の違い、大げさに言うとそれくらい違いが出てしまったんじゃないかなと。
ほれをな、元に戻すことは多分不可能だし、ましてや人間一代の間にそんなことはできないな、と思う。

会った子どもの0.1パーセントでもいいから

じゃあできることといったらなにか。
そういう考え方を持った人間を一人でも増やしていく活動をすることが自分のできることだと。
それに一番いいのは、子ども相手に川遊びをすること。遊びだと我を忘れてやれるが知らず知らずのうちに学びがある。会った子どもの0.1パーセントでもいいからまじめに自然界のことを考えてくれる大人になってくれたら、将来の環境の復元につながる可能性は残るんじゃないかなあと。

千人を超える子ども達と

子ども達との川遊びは59歳の時から始めたんだけども、この、80までの間に、会った子どもの数は多分千人を超えたと思う。
釣餌を入れる器に空き缶を利用して作る方法から教えた。シラハエやカワムツの餌にするヒゲナガカワトビケラの幼虫(セムシ)は川底の石をひっくり返せばすぐとれる。でもそのまま缶に入れたり水をいれておくと早く死んでしまう。川原の細かい乾いた砂を入れておくと長時間生きているんだ。理屈で説明するんじゃない。そういうことはもう少し大きくなったら自分で勉強すればいいことだから。
いろんな子がいたね。生まれて初めて魚に触った子、ザリガニが怖い子、カエルが触れない子もいた。大人になったら水族館みたいなところで働く研究者になりたい、と手紙をくれた子がいたんだけど大きくなったら芸大へ行っちゃった(笑)。それでも、やっぱり、やっててよかったなあと思って…。  

子どもと付き合うときに大事なことは

気持ちの上で子どものレベルになること。そうすると子どもは自然に近づいてくる。大人の言葉を使ってもいいけれども子どもにわかりやすく。先輩だぞと思っていると子どもが一歩下がってしまう。

手の届く範囲をどうやって守るのか

今、竹林の整備をして堤防から川が見えるようにすることを進めているようだが、風景の中にある川を見るだけじゃなくて、川岸まで下りてみなさいということ。水を見て、水の中を見て初めて川を見たことになる。
手の届く範囲をどうやって守るのかというのが本当に大事なことなんだよ。