矢作川を知ろう 【矢作川と人】

真っ暗がりのところにはヘボは来ん ~手入れされた山の恵み、ヘボ~

このページは、矢作川に関わりのある方々にお話を伺い、「語られたままの言葉」を生かして川と人とのつながりをご紹介することを目的として作成しています。

鈴木十(つなし)さん
(1942年うまれ)


 鈴木十さんは豊田市足助地区の五反田町で「ヘボ追い」をされています。「ヘボ」は長野や岐阜、愛知などで食べられているハチで、ヘボご飯や佃煮にしたり、五平餅の味噌に混ぜて使います。鈴木さんは、ヘボの成育が山の状況など自然環境に大きく左右されるということやヘボを通じた交流についても教えて下さいました。
 ヘボ追いは「遊び仕事※」 の代表的なものともいえます。説明してくださる皆さんの楽しそうな表情が印象に残りました。(聴き取り:洲崎燈子・吉橋久美子 2018年12月17日(月)鈴木さんのご自宅の離れ(地域の皆さんが日常的に集まるというお部屋)にて)
※ 「自然との密接で直接的な関係がある、経済的意味に還元できないような誇りや喜びが得られる、身体性をもつ、遊びの要素が強い」といった特徴がある(鬼頭秀一、1997地域社会の暮らしから多生物多様性をはかる:人文社会科学的生物多様性モニタリングの可能性。In:自然再生のための生物多様性モニタリング。鷲谷いづみ・鬼頭秀一編。東京大学出版会2007)




<ヘボの一年>
 ヘボっていうのはクロスズメバチとシダクロスズメバチの2種類ね。区別?飛び方とかで俺は分かるけど、わからん人もおる。クロスズメバチの巣はせいぜい1キロ500(グラム)ぐらいしかならん。シダクロスズメバチっていうのは巣を大きするやつで4キロ5キロていうのができる。
ヘボをぼう(追う) のは6月の中から後ろだな。ヘボは土手に来るのもおるけど林の中が多い。餌をヘボが来そうな場所に吊るして食わせる。餌はわしがとう(わしら)はイカをつかう。
 目印(ビニール袋を割いたもの)のついた餌を食らったヘボぼって、巣を見つける。巣までは200mちょっとぐらい。巣穴を見つけたら、防護服を着て、手で掘り出すよ。木なんかの根っこが絡まってると壊れちゃうで、周りをはさみで切ってって。巣は8センチから15センチぐらい。4、5人のグループで、一年に60から100ぐらいさがすよ。それから選んでくる。多い人は10個ぐらい飼うかな。わしは6つ。餌場がかぎられちゃうもんでね。



 ヘボ小屋で10月まで飼う。餌は10月の中ぐらいまで毎日一回はやっとる。最初は鶏の生の肝。とる15日前までには、幼虫が肝臭くならんよう鹿の肉にかえる。鹿は鉄砲で撃ってくる。それと砂糖水。2リッターで砂糖1キロを溶かいて(溶かして)やっとるけど、それを、年間で何十キロかな、40キロばかじゃない ね、最高になると1日6リッターぐらい作る。
 巣はよそ(恵那市串原など)のイベントに持ってく(販売する)。去年まで「足助ヘボコンテスト」をやっとったけど今年はもうやめた。歳とってやれんもん。みんなに迷惑かかるし。
ヘボの巣は一年で終わる。新しい女王が巣から出てすぐに交尾して冬眠にはいっちゃう。4月ごろに出て来て巣作り始める。


<研究を重ねる>
 毎年違うね、状況が。女王が冬眠する状態と、あと周囲に餌があるかないか。やる餌なんてしれとるもんね。わしが思うには20%ぐらいだと思う。ヘボは狩りバチだもんで、あとは外でクモだとか虫だとか食べとるね。
 一番大きな巣は5キロぐらいになる。初めは2キロぐらいしかいかなんだ。「うちのとこは種類悪いだ」っていって、山岡町(恵那市)の名人に巣を渡して飼ってもらった。そしたら大きなった(笑)。それで大きすることに関して名人に習った。みんなどえらい研究しとるよ。


<昔は里ヘボがようけおりよった>
 ヘボは小学校5、6年の時からやっとるよ。昔の餌はカエル。カエル持っちゃあ歩いて(笑)。昔は人工林ももちろんなかったし田んぼの基盤整備もやってなかった。段々の田んぼで。里ヘボ(クロススメバチ)がようけおりよった。あぜ道とかで巣をつくりよっただけど、だんだんだんだん減って。今はほとんどシダクロ(スズメバチ)になっちゃったね。環境だろうね。


<間伐して3年経つとヘボも来るようになる>
 ヘボは真っ暗がりのところ(手入れができておらず木が密生して生えているところ)には来ん。うちの山は市の助成で間伐やってもらって。しばらくは食わんけど、3年ぐらい経って中の下地(草や低木など)がしとなりだす(成長し出す)と虫が来るもんでヘボのオヤバチ(女王蜂ではなくハタラキバチのこと)も来るようになる。狩った虫は幼虫の餌になる。オヤバチは幼虫から液をもらう。
 ヘボはほりゃあ楽しいよ。やめられん。お金にはならんけど生きがいにはなる(笑)。


***********

■ヘボ仲間 安藤馨さん(写真右)(1936年生まれ)
 ヘボは全部がおもしろい。生きがい。(ヘボが餌に)食らいついたら昼飯抜きでぼっとるもん。わしゃあ「ツケ 」(ヘボに餌をつける役)だもんで、あんまり先頭いって目印見らんけど、たまーにやるじゃんね。前から白いやつ(目印のビニール)がチラチラチラーっと飛んできたときの感動はいいね。]

■ヘボ仲間 山下和雄さん(写真中央)(1941年生まれ)
 今年は5キロ100(グラム)の巣ができた(この地区で今年一番の大きさ)。23キロで18万(円)ぐらいになった。餌が4万かかった(写真:巣の重さ一覧。「バラシ」は巣の外側をとったもの)。




■ヘボ料理 鈴木史寸江さん(奥様)(1946年生まれ)のお話
 ヘボのコンテストやってた時は前の日から女性10人ぐらいで五平餅800本作ってね。幼虫を甘辛く煮つけて、細かく刻んでお味噌に混ぜて。佃煮は巣の中に入ってるの全部使う。黒くても白くても(黒…成虫に近い)。私はよう食べんけどね(笑)。決まった調味料を入れて、味見は全部主人(笑)。

***********


●捕獲した巣を入れる小箱と巣箱
 小箱も巣箱も全て手製である。巣を採ったら小さな穴が無数に空いている小箱に入れ、巣の大きさに合わせて穴から竹ひごを打ち、固定して持ち帰る。
●ヘボ小屋
 ヘボ小屋は鈴木十さんが持ち山の杉を刻んで建て、瓦を葺(ふ)いた。ヘボを飼っている時はトレーを敷いて水を入れ、巣箱を載せて並べる。小屋の前面に渡した針金に餌を吊った針金をひっかけて、食べさせる。枠の上の皿に砂糖水を入れる。(写真は巣箱を置いていない状態)





===========

<オオスズメバチ>
 オオスズメバチは、ペットボトルに返しをつけた「ウゲ 」のようなものを巣穴にはめ込み、周りを叩くと「ダーっと」出てくる。
 オヤは生きたまま35度の焼酎につける。糖尿の血糖値を下げるという。キャップに一杯ずつぐらい飲む。「たいへん(たくさん)飲んだらあかんがや」。一本2,3千円で売れる。子はから揚げにすると「ヘボよりうまい」。>