水生生物調査

アユの良質な餌をはぐくむ川底をめざしています
Pursuing a riverbed where ayu can feed on nutritious algae

 カワシオグサの繁茂が繰り返される要因のひとつとして、川底が固くなったことが指摘されました。川底の環境改善を図るため、全国の先駆けとなって1995年から1999年にかけて砂利投入実験をおこないましたが、効果を検証するに至らず多くの課題を残しました。
 本流では上流からの土砂はダムによってせき止められ、下流まで流れにくくなっています。そこで、支流から運ばれてくる土砂に着目し、それが本流の川底の水生生物に与える影響について調査し、アユにとって良質な餌がはぐくめる河川環境を創るための提言をおこなっています。


カワシオグサ

矢作川中流域では初夏と秋に瀬の石表面を覆い尽くすように繁茂する。地元の釣り人たちは、「アオンドロ」と呼び、アユ釣りの糸に絡まるこれを嫌う。
カワシオグサの一生→
カワシオグサの抑制方法を探るため、カワシオグサの生活史や成長特性の把握に取り組んだ。室内培養実験により、遊走細胞から発芽し、2cmぐらいに成長するのに2ヶ月ほどかかることがわかった。



くっつき病


 矢作川本流・中流域の川底の石は大きな出水でもほとんど動きません。石の表面にカワシオグサが繁茂し、裏面にはカワヒバリガイが糸を張り頑固に付着しているのです。このように付着性の生物に代表される川底を「くっつき病」と診断しました。


エイリアンがやって来た -外来生物カワヒバリガイの侵入-


 2004年、矢作川で初めてカワヒバリガイが見つかりました。採取した貝の大きさから、2002年には既に生息していたものと思われます。我が国においてカワヒバリガイの川への侵入は、琵琶湖・淀川、木曽三川についで3例目となりました。
 矢作川本流を広域に調査した結果、カワヒバリガイは上流の矢作ダム湖から下流の米津橋まで生息していることがわかりました。中流域では2005年から2006年の夏に大発生し、9月になると大量に死にました。その後、2008年に再び増加の傾向がみえています。
 研究所では利水施設に被害を及ぼすカワヒバリガイの成貝と幼生の分布調査を継続し、今後の発生に注意を呼びかけています。


利水施設の水路壁面に付着したカワヒバリガイ。カワヒバリガイの幼生は生まれてすぐはプランクトン生活をする。矢作川の水が高度利用されている現状をふまえると、矢作川の水が供給される先々でカワヒバリガイが付着し、通水障害を起こす可能性がある。


川の異変を調べています 〜川の定期検診〜
Researching the unfavorable change of the river -River health check-ups-


川底で生活する水生昆虫

 研究所では矢作川の変化を科学の眼で日々みつめ、アユを始めとして川底で生活している水生昆虫などの小さな動物(底生動物)、カワヒバリガイ、藻類、そして水質を定期的に調べています。
 2000年の東海豪雨は未曾有の大水害となり、矢作川流域にも甚大な被害を及ぼしました。この大洪水が底生動物にどのような影響を与えたかをこれまでの定期検診のデータをもとに調べた結果、ダムが連続して設置されている中流では、豪雨後の底生動物相は豪雨前の状態へ速やかに回復していくことが確認できました。矢作川中流の川底は非常に安定しており、川が本来受けるべき“かく乱”が起こりにくい川となっていることがわかりました。


 矢作川中流の水はしばしば“緑色”と表現され、濁っている印象を与えています。その原因を探るため、水の中に浮いているもの、溶け込んでいるものの量や種類について、時間的な変化、源流から河口への変化を調べました。その結果、水量の少ない時期、ダムが連続する中流にたくさんの植物プランクトンが流れていることがわかりました。
 人々の豊かな生活と健全な河川生態系の共存をめざして、いち早く矢作川の「異変」を察知し、その原因と解決方法を調べています。


洪水の軽減や飲料水、電力、工業・農業用水の供給など様々な恩恵を私たち流域住民に与える流域最大の矢作ダム


川の個性を生かした川づくりを提案しています
Restoring our river with its Indigenous aspects
多自然川づくりの検証
Evaluation of“nature-oriented river improvement”


 多自然川づくりは「工事が終わってからが始まり」と言われます。工事後、川本来の自然がいかに回復し、多様な生物の生息空間を創ることができたかを見極めるまでが一連の河川整備事業となるからです。このため工事前から工事後の長い時間をかけて生物の生息状況を調査し続け、多自然川づくりによる河川整備の効果を検証し、川づくりに生かしていくことが肝心です。豊田市内を流れる矢作川支流の3つの小河川で、多自然川づくりによる河川改修工事の前後に、生物の生息状況や流域の人々への聞き取り調査をおこない、整備の評価をしました。その一つ太田川では、ふるさと的な景観が再生され川に近づきやすくなったことで、日常に「小川」という自然が取り戻せたと評価できました。また、生物の専門家による継続した調査は、時間的にも予算的にも難しいことが多く、河川整備に携わる人が簡単に評価できる方法を模索し,豊田市内の小河川のための「YRI(矢作川研究所)ハビタットアセスメント」を試作しました。
 多自然川づくりが特別な河川整備の方法でなくなった現在、豊かな動植物相の回復に寄与し、それぞれの川の個性を生かした整備をおこなうため、整備前後の一貫した評価方法の確立と簡便化をめざしています。


多自然川づくりのイメージ図


三面コンクリート張りの人を寄せ付けない状態であった川(左図)は、改修工事でコンクリートを取り払い、川底に自然の石を置くことで、川底にすむ魚や昆虫の住処となる。川から陸上へなだらかに連続する川岸を作り、川辺に植物を植えることで、鳥や昆虫などの繁殖や休息の場を創出できる。(右図)



矢作川水系巴川の支流・太田川の多自然川づくりをおこなっていない区間(左)、おこなった区間(右)