矢作川を知ろう 【矢作川と人】

自然は神様がおって、怖いんだぞ、と

このページは、矢作川に関わりのある方々にお話を伺い、「語られたままの言葉」を生かして川と人とのつながりをご紹介することを目的として作成しています。

池野あさこさん (1950年生まれ)(有間竹林愛護会会員)

 池野あさこさんは矢作川の上流部、笹戸地区の竹林を整備している「有間(あんま)竹林愛護会」の会員です。初めてお会いしたとき、池野さんは未整備エリアで枯れた竹を割って運び出しておられるところでした。「黒い竹が汚いでしょう。きれいにしとかんとね。」「女性も頑張ってるんですよ。タケノコを出荷したり、祭りで出店したり。地元で仲良く楽しく」と笑顔でお話してくださいました。
 次の春、同愛護会が開催した「タケノコづくしの食事会」に参加させていただくと、池野さんがおられました。二人並んで川を見ながら、「川の思い出、川への思い」をお聴きしました。
(聴き取り:吉橋久美子2017年5月28日 豊田市有間町の矢作川の川辺にて) 




<いっぱい、川で泳いでました>
 私が生まれたのは、旭町の、島崎という、もうちょっと上流にある、川のすぐそばなんです。私が通学したのは小渡小学校。小学校の頃は、川で泳ぎました。体育の時間に(笑)。最初は泳げなくって、顔突っ込まれたりなんかして。で、泳げるようになったのは6年生ぐらいかな。中学の時は夏休みは毎日毎日、いっぱい、川で泳いでました。もう真っ黒になって。だけど水が冷たいから「ちょっと上がらんといかんぞー」って言われてね、おっきな石にこうへばりついて、あのー甲羅干しみたいにしてました(笑)。川で、しょっちゅう遊んで。
 あの、梁瀬(やなぜ)というとこがあって、岩がゴツゴツしたところで、大きなお兄ちゃんたちはそっからボーンと飛びこんだりなんかして、泳いでいましたね。畑できゅうりをとってきて、で、川で、投げて(笑)それを食べたりとか、おやつで。そんな暮らしでしたね。子どもの頃はね。
 あと、あのー支流で、魚を掬う。イシャンコとかー、こんなちっちゃな魚をね、すくうことが楽しくって―。網持ってって何人かで遊んだりとか。川はすごく身近だったね、



<にごりすきはすごい楽しみだった>
 台風が来たりすると、大きな網でにごりすき※1。どんな魚があるのかなあってすごい楽しみでしたね。結構すくえるもんで、家でこう、串に刺して焼いたりして、で、藁のつっとこ※2みたいなやつがあるからそこに刺して、焼いた魚をこう、あの天井から吊るすみたいにして、それで、おそうめんの出汁にしたような気がします。だからいっつもこう、いつ食べるんだろうなあーって感じで子どもながらに見てましたね。焼いたのを干してるから、多分カチカチだったと思う。
 ほで伊勢湾台風の時(昭和34年)には、桑畑に魚がいっぱい入って来て、それを捕まえたのは凄く楽しかったです。危ないから行っちゃいけないとか言われたんだけど、でも行っちゃいましたね(笑)。

<瀬に乗ってすーっと流れてけば>
 中学の時、瀬に乗ってね、すーっといったらねえ、深いほうまで入っちゃったの!その三角岩のとこで!ああ怖いなあ!と思って、溺れるーと思って(んー)、ほしたらもうあんまりこう力を入れないですーっと流れに乗ったんですよね。ほしたらこう浅い方へ来たんですよ。だから溺れなくて済んだんですけどー。ちょっとドキドキでしたね、ははは….んー。だから、暴れるとだめなんですよ。流れに、あのー逆らっちゃうと、わーあってなっちゃうから、瀬に乗ってすーっと流れてけば しぜーんと浅い方に流れてくんですよね。だから知らない川では遊ばない。深いとこがあるから。水神様が「おいでおいで」(笑)って呼んじゃうから(笑)。



<自然はいいとこもあるけど怖いところもある>
 やっぱ、自然ちゅうのはそういうもんだもんね。いいとこもあるけど、怖いところもある。毎年この川で一人や二人はねえ、亡くなってる人いるんですよ。ここらはまだいいけど池島の辺りなんかはすごい深いとこがあるんです。だから気をつけなきゃいけないよ。流れがあるっていうこと、プールとは違うからね。ツーっとね、入りこんじゃう。
 私たちはもう小っちゃい時からそういうのがしみこんでるから、先輩たちがあそこは危ないで行くなよって言われたらもうそれは絶対守る。一人で行かないとか。そういうとこでも、人生の勉強が、ちょっとできたかなって。自分のこう器量に応じて、深いとこ行きたいなって思ってもね、こっちの方しかダメだなっていうね、自分で自分の身を守るっていうそういうのを自然のなかで、こう…勉強してくんじゃないかなと思うじゃんね。
 だけど、まちの人ってそういう体験がないから。救急車だってこんな田舎じゃ20分ぐらいあの経たないと来てくれないよっていう、そういうことを、ちゃんと弁えて、キャンプしたりね。自然は神様がおって、怖いんだぞ、と。自分勝手に無茶苦茶なことをすると、命がなくなる可能性があるよと。うん。そういうことを、言いたいですね。

※1.にごりすき…大水で水が濁っているような状態の時に網で魚を掬うこと
※2.藁のつっとこみたいなやつ…「つっとこ」はウナギをとる竹製の漁具。それとおなじような形の細長い、巻き藁