矢作川研究所日記

2025/01/23

クロロフィル蛍光法のゼミとデモ(付着藻類の一次生産量の測定)を行いました

講師:今泉久祥 氏

ゼミの様子


川の石に生えている付着藻類は植物なので、太陽の光エネルギーと水中の栄養塩(窒素やリン)、二酸化炭素を使って光合成をし、自分で自分のご飯を作っています。藻類は光合成をするときに太陽光をクロロフィル(葉緑素)で吸収します。光合成に使いきれずに余った光エネルギーは熱や蛍光として放出しています。この放出された蛍光は“クロロフィル蛍光”と呼ばれています。吸収された光エネルギーを効率よく光合成に利用しているとクロロフィル蛍光強度は低く、あまり利用していないと高くなります。クロロフィル蛍光法は、クロロフィル蛍光を測定することで一次生産などの光合成に関する情報が得られるという方法です。
1月16日、クロロフィル蛍光法について、2015年に研究所の研究員をされていた今泉久祥さん(現在、エコー株式会社)にゼミをしていただきました。クロロフィル蛍光法の原理はなかなかに難しいもので、理解するにはさらに勉強しないとなりません。理解を深めるべく、ご持参いただいたドイツの会社(Walz)のクロロフィル励起蛍光計を用い、矢作川で測定していただきました。


クロロフィル励起蛍光計による測定


河川中央、袋法で測定

1月17日、豊田大橋の下流で、クロロフィル蛍光法と、これまで研究所で取り組んできた袋法を用いて付着藻類の一次生産を測定しました。寒風の中、鼻水を垂らしながらの厳しい調査でしたが、無事に両方法とも測定を終えることができました。これから解析を進め、2つの手法の結果を比較する予定です。(内田朝子)



2024/12/16

外来水生植物「オオカナダモ」の分布状況をドローンで調べました

 このモニタリング調査は2011年以降、年に1回、出水のほとんどない冬季に実施しています。調査を始めた頃は、アユの釣り舟で川下りをしながら繁茂するオオカナダモを把握していました。しかし、近年、高齢化に伴い、調査の相棒となってくださる船頭さんが激減しました。ドローンを利用すると、上空から水中の様子を短時間で撮影でき、とても便利ですが、釣り舟に驚いて飛び立つ水鳥や川の主ヅラをしたコイに出会うという楽しみが減りました。
 オオカナダモが最も多かったのは2011年頃で、場所によっては水面を覆い尽くすほどに繁茂していました。オオカナダモの繁茂面積は、2018年に激減してから小康状態にあります(内田ほか 2023) 。今年の状況は、大繁茂していた頃と比較すると、ほとんど生育していないと言えるほどですが、それでも局所的にオオカナダモの小さな群落を確認しました。今後も大繁茂の抑制に向けて、オオカナダモの動向をモニタリングしていく予定です。(内田 朝子)


ドローンを用いたオオカナダモ分布調査の様子


※内田朝子・白金晶子・椿 涼太(2023)矢作川におけるオオカナダモ(Egeria densa Planch.)の分布と出水撹乱(底面せん断応力)との関係.矢作川研究27:11-17.



2024/12/06

鳥の糞にたかる蝶

ちょっと前(2024/10/18)の話になりますが,アユの産卵場調査の休憩時に不思議な光景を目にしました.川辺の石の上に落ちた鳥の糞に蝶が集まっているのです.蝶を撮影しようと近づくと一旦は飛び去りますが,また近くに降り立ち,糞に寄っていきます.よく見るとストロー(口吻)を伸ばして,鳥の糞を舐めているようです.


鳥の糞を吸うアカボシゴマダラ


しばらく見ていると,複数種の蝶(アカボシゴマダラ,コムラサキ,シジミチョウ科の一種 ※Google Lens等を使用して種名検索)が集まってきて,「糞にたかっている」状態でした(ハエももちろんたかっていましたが…).


      鳥の糞を吸うコムラサキ


糞に集まるシジミチョウ科の一種とハエ


後日,ネットで調べると鳥の糞を吸う蝶に関する記述をみつけることができ,鳥の糞から繁殖や体細胞維持に必要な栄養素(ナトリウムやアンモニア)を補給するための行動のようで,オスによく見られるとのことでした(Honda et al. 2012参照).乾いた鳥の糞に水滴を出して湿らせて,その液体を吸っているようですが,この観察時に小雨が降ってきて(写真の水滴に注目),水滴を出す手間を省いているのかなとも思いました.

アユ産卵期には,産卵のために蝟集したアユ親魚を食べるためにカワウなどが集まっていることがあります.今回川辺で観察したこの鳥の糞にも,きっとアユの栄養が含まれているでしょう.そう考えると,アユ→鳥→(糞)→蝶という繋がりがあり,アユは蝶も支えているとみることができる…としみじみと思った休憩時間でした.(小野田 幸生)



2024/11/26

平井小学校4年生が岩本川の流れを変える体験をしました

豊田市の扶桑町・百々町を流れる岩本川で、平井小学校の4年生66人が川学習を行いました。

岩本川では「ふるさとの川づくり事業」※1をきっかけに、岩本川の草刈りや自然再生などの日常管理をする住民団体「岩本川創遊会」が発足しました。平井小学校の川学習は2017年に始まり、岩本川創遊会と研究所がサポートを続けています。

今回は総合学習の一環で、岩本川の流れを変える体験をしました。4つの班に分かれて、堆積し過ぎた土砂を削ったり、土砂が浸食され過ぎて護岸に影響しないように石を置いたりしました。児童の皆さんは、さまざまな案を出しあいながら、協力して一生懸命に取り組んでいました。


堆積しすぎた土砂を削る

「わんど」のような部分を広げてみる

土砂が浸食されないように石を置く

相談しながら作業を進める


岩本川では、生き物がすみやすく、人が親しみやすい川となるように、「日曜大工感覚」で、川に手を入れる「水辺の小さな自然再生」※2が行われています。

水辺の小さな自然再生では、「見試し(みためし)」という言葉がよく使われます。まずやってみて、うまく行かなければやり直し、試行錯誤をしながら技術を磨いていくというものです。自然環境を相手に何かをしようとするとき、計画通りにいくとは限らないからです。

今回の授業は、その「見試し」のような時間だったといえます。児童の皆さんは、自分たちが石を置いたり、土砂を削ったりしたことで川の流れが変化したことを体感してくれたのではないでしょうか。今後も、自分たちが手を入れたところがどう変化していくのか、関心を持って岩本川に関わり続けてほしいと思います。(吉橋久美子)

※1.ふるさとの川づくり事業:地域の皆さんと豊田市役所が一緒になり、地元の川の未来像を描き、安全安心で、自然豊かで、地域の皆さんに愛され育まれる川を目指す取り組み。
※2. ウェブサイト:水辺の小さな自然再生 Collaborative Nature Restoration
「小さな自然再生」研究会(サイト運営)、日本河川・流域再生ネットワーク(JRRN)(サイト管理)



2024/11/16

エクスカーション「来て、見て、学ぼう!川辺の豊かな自然とその守り人たち」を行いました

2024年11月16日(土)、矢作川の中流域でエクスカーションを行いました。川底の石に着目した夏の回に続く第二弾で、市民の方を対象として、矢作川の川辺を散策しながら自然を味わい、川と人の歴史と今を知り、今後の矢作川について考えるきっかけとしていただくために実施しました。

園児から60代以上の方まで17人の参加がありました。まず、集合した越戸公園付近で、研究所から、河畔林の特性、対岸の「古鼡水辺公園」で行われた近自然工法による護岸工事、川辺を整備する「水辺愛護会」について説明しました



平戸橋下流の「波岩水辺公園」では、かつて景勝地だったことや、治水を巡って両岸住民の駆け引きがあったことなどをお話しました。



お釣土場水辺公園では、「中越戸水辺愛護会」の会長、森和夫さんからお話を伺いました。2016年から、この猿投台地区全体の取り組みとして散策路の整備を始め、眺めを遮っていた竹林を伐開してきたそうです※。地区の7愛護会が連携していること、企業ボランティアを受け入れていることも教えていただきました。
(※2016年から「中越戸竹伐り隊」として活動開始、2020年から現在の愛護会として活動。)



その後、研究員が行う植生調査のうち、「検測棹(けんそくかん)」を使って木の高さを測る方法を見ていただきまし



波岩水辺公園付近では勢いのよい流れ、お釣土場水辺公園付近では静かな流れを見ることができました。足元では様々なキノコが目を引きました。アンケートでは、印象に残った話として、「水害を和らげる人の知恵、歴史」(60代以上)、研究所に期待すること、研究所と共にしたいこととして、「今ある風景を知る解像度を上げる知見を得たい。河川整備の取り組みの成果、経緯を知りたい」(50代)、自由意見として、「楽しかった!!」(10代)、「初めて知ることばかりで川の関心が深まりました」(20代)、「大変勉強になりました」(40代)などの回答を得ました。

また、散策をしながら、川で遊んだ思い出を語ってくださる方が多く、「遊べる川」への期待が高いと感じました。