矢作川研究所セミナー「百聞を一見にする -ふるさと絵屛風でつなぐ地域の記憶-」を開催しました

2025/09/17

2025年9月17日に、滋賀県立大学より上田洋平先生(専門:地域文化学・地域学)をお招きして、矢作川研究所セミナーを公開で開催しました(22名参加)。上田先生は多世代の住民が共に「ふるさと絵屏風」を創り、活用するまちづくりの手法を開発され、四半世紀にわたる取り組みによってその輪は滋賀県を中心に約60地域に広がっています。

ふるさと絵屏風は春夏秋冬、生老病死、冠婚葬祭などの構造を持ち、主に昭和30年代の暮らしが描きこまれています。そしてその絵の一つ一つに物語が込められています。例えば、琵琶湖の浜に打ち上げられた木の枝を拾う人々の絵から、かつて木の枝は「ごみ」ではなく、「焚きもん(焚き物)」として喜んで拾いに行くものだったことを「絵解き」(解説)をしてもらうと、木の枝の価値の変化に気づかされます。

講演では、このふるさと絵屏風づくりを軸として、地域の記憶を未来につなげる方法、地域の捉え方などについてお話してくださいました。まず「絵解き」として上記のような物語の数々が紹介され、ふるさと絵屏風の制作に関わった方々の体験が生き生きと伝わってきました。上田先生の語り口も魅力的で、ウィットに富んだ言葉選びに会場では笑いも起きていました。

ふるさと絵屏風の制作は(1)五感体験アンケート(2)聞き取り(3)絵図の制作(4)絵図の活用の各段階から成り、この一連のプロセスを「心象図法」と呼ぶそうです。制作過程の写真からは、多世代の住民が楽しく熱心に関わっている様子がわかりました。この取り組みの背景には、次のような、上田先生の地域への温かい眼差しがあります。
・地域においては「ここで・ともに・ぶじに・生きる」ことを願い、継続するための暮らし方や仕組み、「無事の文化」があった。これをビジネスモデルならぬ「ブジネスモデル」として尊重する。
・ふるさと絵屏風は庶民の暮らしを描く「絵画ドラマ」であり、体験からくる「身識(みしき)」を素材として描くものである。
・「ふるさと絵屏風」の制作および活用は暮らしや文化、地域資源の再発見と再評価などにつながるまちづくりである。
これらの深い考え方が背骨となり、ふるさと絵屏風づくりを支えていることがわかりました。


ふるさと絵屛風の「絵解き」

「近江のブジネスモデル」についてのお話

講演の後、参加者が「五感アンケート」に記入して共有するグループワークの時間があり、ふるさと絵屏風の制作過程を疑似体験しました。よく練られたアンケートで、各グループで話に花が咲いていました。とても興味深い講演やグループワークであったことから、講演終了後も上田先生と話し込む参加者の姿が見られました。

アンケートでは、上田先生への感謝の言葉と共に「地域の方とつながりたい、地域にもっと目を向けたい、いろんな興味がわいてきました。絵屏風つくりたくなりました!」「私の祖父・祖母にも五感アンケートをやってもらおうと思いました。」などの感想をいただきました。

講演で触れられた、「近江のブジネスモデル」の「山里の守(もり)をする」感覚は、矢作川の管理を行う人々にも共通すると感じました。また、懸念される「地域の記憶の空洞化」は、矢作川流域に住む人々にとっても課題であると考えます。研究所においても矢作川について語り合う場を設けていきたいと思いました。(吉橋久美子)


ふるさと絵屏風のミニチュア版もご持参くださいました

グループワークで「目に浮かぶ風景」「なつかしい音」などを紹介しあいました

グループワークを見守る上田先生も笑顔です

地域の記憶は冊子やカルタなどでも表現されています


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