矢作川研究所日記

2024/08/24

エクスカーション(野外体験学習)を行いました!

野外体験学習の様子(手前[下流]側から,底生動物,付着藻類,魚)

2024年8月24日(土)の午前中に,矢作川中流域(扶桑公園横付近)でエクスカーションを行いました.「五感で感じる矢作川~川底の石から矢作川の生物と環境を考える~」と題し,ダム下流における川底の状態を体感してもらうことを目的に行いました.

心配された天気にも恵まれ,親子連れを含む24名の参加者の皆さんに,実際の川底の石をじっくり見てもらうことができました.3班に分かれた参加者の方は,藻類底生動物のそれぞれの分類群について約30分ずつ体験学習に取り組みました(それぞれの学習内容については,それぞれの講師による「研究所日記」をご参照ください).どの分類群でも,川底の石にこだわった学習内容となっており,様々な石の見方を習得できたのではないかと思います.

事後アンケートでは「面白かった」「楽しかった」という意見や,「また来たい」「もっと時間が欲しかった」とアンコールともとれるコメントを頂き,関係者一同嬉しく読ませて頂きました(記念撮影でも笑顔が多く見られたのも嬉しかったです).また,「他の場所も見てみたい」という発展的な学習への展開をうかがわせる意見もあり,学習効果の手応えも感じることができました.石表面の手触りの擬態語(ヌルヌル,ボサボサ)が見られたのも,「五感で感じてもらえた」成果といえ,嬉しく思いました.今回のエクスカーションが,ダム下流で変わりつつある川底の環境を少しでも気にかけるキッカケになったら嬉しく思います.

末筆になりますが,現場の草刈りなどの準備をしてくださった古鼡水辺公園愛護会の皆さま,当日の運営補助などをしてくださった関係者の皆さまのご協力に心からお礼申し上げます.


皆で記念撮影



2024/08/24

エクスカーションの内容紹介【魚編】

はみあと探しの様子


8/24に行ったエクスカーション(野外体験学習)のうち,魚の体験学習について紹介します.※エクスカーションの全体を説明した記事も是非ご参照下さい.

魚の体験学習では,アユが石面の付着藻類を食べたあと(はみあと)を探してもらいました.

まずはアユについて解説しました.アユは通常1年で一生を終える「年魚」です.約1 mmの径の卵から20 cm程度の成魚のアユに成長すると考えると,1年で約200倍も成長することになります(30 cmの尺アユなら300倍!).その成長を支えるべく,アユはとても大食漢です.餌となる石面の付着藻類を1日に体重の40~50%も食べるという記述があります(宮地ほか,1976).よい餌場には「なわばり」を形成し,侵入してきた他個体に体当たりしたり追い払ったりします(その習性を利用した釣りが「友釣り」です).そのアユのはみあとの幅はアユのサイズと関連すると言われており,大きなアユほどはみあとの幅が大きくなります.

その説明をした上で「一番大きなアユが付けた(幅の大きな)はみあとを探そう!」と呼びかけ,アユのはみあと探しをしてもらいました.たくさんのはみあとが重なって幅が計測しにくい石が多くて苦労されていましたが,それでもいくつかのはみあとが見つかるたびに大盛り上がりで,計測係の私も楽しく「記録」を読み上げました.
当日の最高記録は,10代の参加者の方が見つけた11 mmの幅のはみあとでした.岸際の限られた範囲での記録としては結構良い記録なのではと思います.

はみあと探しの中で,「大きめの石が狙い目」,「フワフワした藻のついた石は良くなさそう」などのコツを見つける参加者の方もいて「五感をフル活用されているな~」と楽しく見守らせてもらいました.中には,「アユの気持ちになって探すと見つかる!」と悟りを開かれる方もおられ,ゲームのようなはみあと探しでも多くの学びがあったようでした.(小野田 幸生)
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宮地伝三郎・川那部浩哉・水野信彦(1976)原色日本淡水魚類図鑑(全改訂新版).保育社


アユの解説


アユの友釣りの実演も行いました(写真左上)


アユのはみあと探し
(写真手前側)


「記録」計測
(オレンジTシャツ着用の私が記録係,覗きこんで記録を待つのが発見者)



2024/08/24

エクスカーションの内容紹介【藻(も)編】

付着藻類の観察コーナーでは、水際に足を浸して涼をとりながら、藻に関するお話をしました。最初に、川底は石の表面に生えた藻でヌルヌルしているので、とても歩きにくいことを体感してもらいました。また、ダム下流では、砂や砂利が少なく大きな石ばかりになっている様子も紹介しました。次に、各自、川から拾いあげた石をトレイにのせて、藻の採集体験をしてもらいました。石を歯ブラシで擦りながら、水道水をかけ、藻を洗い流す作業で、調査の気分を味わってもらいました。藻は魚(アユやオイカワ)、川虫(ヒラタカゲロウ)、貝(カワニナ)などの餌としてとても大切であること、川の中で「食う-食われる」の関係で水生生物同士が繋がっていることを身近に感じてもらえたと思います。続いて、ダム下流に多い藻、カワシオグサを紹介しました。カワシオグサは観察時には1 cmに満たない短い長さでしたが(生長期には5~10 cmぐらい)、頭大の石に多く付着している様子を観察していただくことができました。
 現場では、藻はヌルヌルしていることが分かっても、どのような種類が生えているのかは、顕微鏡で拡大しないとわかりません。採集したサンプルを顕微鏡で観察するまでの流れで開催できるとよかったのですが...。代わりにというわけではありませんが、エクスカーションで採集した藻を顕微鏡写真で紹介します(内田 朝子)。





2024/08/24

エクスカーションの内容紹介【底生動物編】

川底の生き物に興味津々!?


「底生動物」とはその名の通り,川や海の底に棲んでいる動物で,魚類やエビ・カニなどの甲殻類,貝類,昆虫類(水生昆虫)などが含まれます.エクスカーションではまず,この底生動物の中でも矢作川で個体数の多い水生昆虫について説明し,底生動物は川の様々な環境指標として利用されており,採集された動物から水質の善し悪しを判断できること,川底の「安定化」の指標になることをお伝えしました.川は本来,浸食と堆積が繰り返される不安定な場所ですが,ダムがあることで,ダム下流の川底では砂が減り,石と石が組み合わさってガチガチになる「安定化」が起こります.この川底が安定化していく過程において,矢作川では水生昆虫のヒゲナガカワトビケラが優占し,最も安定した川底ではオオシマトビケラが優占する(岡田・内田,2016)ことを説明しました.


底生動物の説明


次に参加者のみなさんに川に入って石を拾っていただきました.石が大きく,ガチガチなため,石を川底から持ち上げ,岸辺まで運ぶことにとても苦労されていました.みなさん,採集した大きな石の裏に砂粒や小石がたくさんくっついてくること,そしてたくさんの生き物が付いていることに驚いていました.砂粒や小石は糸で大きな石に繋がれており,ヒゲナガカワトビケラやオオシマトビケラの巣であること(通称「トビケラマンション」)を説明しました.また,みなさんが採集したどの石ににも特定外来生物のカワヒバリガイが付いており,矢作川へ侵入してからの経緯や生活史についてお伝えしました.カワヒバリガイも糸でガッチリと石にくっついているため,どのぐらいの力で引きちぎれるかをみなさんに体感していただきました.


石を拾ってじっくり観察


重い石を岸辺まで移動


石裏の生き物を手に取って観察


カワヒバリガイのくっつき強度を体感中


トビケラマンションとヒゲナガカワトビケラ


オオシマトビケラ


今回のエクスカーションでは矢作川の典型的なダム下流の底生動物を紹介でき,オオシマトビケラやカワヒバリガイなど特定の生物がたくさんいることを実感していただけました.ただ,川にほとんど足を踏み入れたことのない参加者も多かったので,ダムの無い不安定な川底も今後体感していただき,違いを感じてもらえる機会を作れればと思いました.(白金 晶子)


岡田和也・内田臣一(2016)矢作川中流の瀬の底生動物群集 の遷移におけるヒゲナガカワトビケラとオオシマトビケラ の位置付け.矢作川研究,20:1-11.