動物学会のミニ講演会で「ガサガサの魅力」について紹介しました.

2025/09/06

講演の様子(動物学会の事務局の方に頂きました)


2025年9月6日,ポートメッセなごやにおいて開催された動物学会のミニ講演会でガサガサ(足で川岸の植物などをガサガサして魚などを取る方法)の魅力について紹介しました(山本大輔研究員,吉橋久美子研究員との共同発表).

まず,矢作川学校で実施しているガサガサの写真を用いて,魚の習性を理解して行う「正しいガサガサ」について説明しました.覚えておきたい魚の習性は,①魚は石や草の陰に隠れるのが好き,②流れの変化に敏感である,③物や壁などに沿って逃げる,の3点です.それを理解すれば,「水面に張り出した奥行のある草の陰を狙い,川岸や川底に網を付けて設置し,設置した網を動かさないように注意して,ガサガサと魚を驚かして網に入ってもらう」というガサガサのコツを実践するのみとなります.

その地域ごとに網で多くとれやすい順に魚を配置した「絵合わせ図鑑」も紹介しました(小野田,2025).研究者も図鑑を使って魚種の名前を調べますが,その種の分布域と採集場所から採集される可能性のある種を絞り込みます.この図鑑は,地域ごとに採集された種を紹介することで,分布域の知識が無くても魚種の絞り込みができるようになっています.

また,ガサガサなどの自然体験は河川愛護の精神の醸成にも役立っており,豊田市の「ふるさとの川づくり事業」にもつながっていることも紹介しました.「ふるさとの川」は付近の小学校の環境教育の場としても活用されており,その効果は子どもたちの事前・事後での絵の変化に見ることができます(吉橋・山本,2020).たとえば,海にいる生きものも描いていた子が川にいる生きもののみを描くようになったり,生きものの描写がより写実的になったりします.ガサガサとの関連では,生きものが草むらと一緒に描かれるようになり,生きものの隠れ場所を体感的に理解できたことも読み取れます.

「ガサガサの魅力」は,もちろん楽しいことにつきます.良い場所を狙って魚を捕れるかどうかというドキドキ感,新たな魚種との出会いなどの意外性も魅力の一つと言えるでしょう.個人的には「狩猟本能が刺激され,採集欲が満たされる」のも,根源的な楽しさと関連していると思います.さらに,動物学会との関連で言えば,ガサガサは動物学への入門のきっかけになり得るとも考えています.魚の習性の理解(→生理学や生態学),魚種の見分け(→分類学),生物多様性への気づきとその保全(→保全生物学)などへの発展も期待できます.そんなガサガサを皆さんにも楽しんでもらいたいというメッセージを伝えて来ました.

講演後に高校の先生から,「正しいガサガサの仕方やガサガサの魅力が分かったので,今後の活動で伝えたい!」との感想を頂きました.ガサガサの魅力を伝えることで,ガサガサのファンが増えて,身近な川の環境に関心を持つ人が育つといいなと思っています.
(小野田 幸生)
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・    小野田幸生(2025)効果的な川学習の教材作成に向けたタモ網を用いた籠川での魚類調査.矢作川研究,29:7-22.
・    吉橋久美子・山本大輔(2020)子どもが描いた「川と生き物の絵」は川学習の前後でどのように変化したか.矢作川研究,24:55-67.


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